寝ている間に学習すれば語学が身につくなどという、いわゆる睡眠学習に効果があると、一部のメディアやWebサイトでは謳われていますが、本当にあるのでしょうか。本記事では、この睡眠学習に効果があるのか検証していきます。
睡眠学習に関する研究
効果はほぼないと考えられる
たまに、「寝ている間に音声を聞くだけで英単語を覚えられる」といった睡眠学習の効果を謳う広告がありますが、先に結論を申し上げると、睡眠学習に効果はありません。効果がないのに、なぜこういった論調が出てきたのか、以下見ていきましょう。
効果ありとされている実験はいくつかあった
そもそも睡眠学習が効果あるといわれるにあたっては、その効果を示す実験がいくつかありました。たとえば、爪を噛む癖のある子どもたちに対し、彼らが寝ている間に「自分の爪は苦い」と聞かせ続けたことにより、40%の子どもが爪を噛む癖がなくなったというもの、毎晩ラジオをつけたまま寝させ、英会話レッスンの番組を流したところ、被験者の英語能力が上達した、というものなどがあります。他にも類似の実験もあり、睡眠学習の効果が1960年代ごろから叫ばれるようになったのです。
エモンズとサイモンの研究により否定
しかし、これらの研究では、実験による帰納的な検証のみで、心理学・生理学的見地からの演繹的考察がなされていないものが多く、批判が多く集まりました。また、アメリカのウィリアム・エモンズとチャールズ・サイモンという2人の研究者は、先行研究について、先行の実験の大半は被験者が常に睡眠状態であることを監視し続けたものではないと批判し、自らも実験を行いました。この実験は、被験者が完全に睡眠状態であることを監視し続けながら、簡単な単語を聞かせましたが、効果は全くあらわれませんでした。
このように、各種後続研究で批判・反証されています。特に、睡眠中の脳の動きや感覚系の動きから見ても、効果があるようには考えられません。それでは、睡眠中の脳の動きや感覚系の動きを確認していきましょう。
睡眠学習に効果はあるのかを睡眠中の脳の働きから検討
レム睡眠時の脳と感覚
レム睡眠の際には、感覚系から得られる情報、すなわち聴覚や嗅覚等も含めた情報は、脳の視床という部分でブロックされ、情報処理機能の分野に行くことはありません。たとえて言うならば、建物(=人体)の中にある窓口(=脳)まで書類(=情報)を持っていくとして、そもそも建物の入り口(=感覚系)がシャッターでしまっていて、窓口まで書類を届けることができないようなものです。よって、睡眠中に聞いた音やにおいなどが脳の中で処理されず、定着することもないのです。
ノンレム睡眠時の脳と感覚
ノンレム睡眠時には、感覚系から得られた情報は脳に届きますが、大半の処理分野はこの間休息しており、この間情報が処理される可能性はかなり低いです。すなわち、レム睡眠と異なり、情報は伝達されるものの、処理機構自体の動きがかなり低下しており、ほとんど処理されない可能性が高いのです。上述と同様に例えると、今度は建物(=人体)の入り口(=感覚系)の自体は空いており、窓口(=脳)までもっていくことは可能なものの、その窓口の担当者が休憩時間で不在、といったような状態です。よって、こちらも脳で処理される可能性はかなり低く、よって記憶として定着していく可能性もかなり低いです。
最後に
このように、睡眠学習の効果はないものと考えられています。こういった広告などの情報に惑わされず、起きている間に勉強し、よく寝て記憶を定着させる、といった学習法を行っていくことが重要です。