記憶の定着と睡眠が密接に関係していることをご存知の方は多いかもしれません。しかし、どういったメカニズムで関係しているのかはなかなかわからない部分も多いのではないでしょうか。この記事では、記憶の種類からそれぞれの記憶と睡眠の関係性をお教えします。
記憶の種類
「宣言的記憶」と「非宣言的記憶」とは?
記憶と一言でいっても様々なタイプがあります。研究などでは、言葉として記したり話したりできる記憶を「宣言的記憶」、言葉で言い表したり書き表すことができない身体の動きや感情などの記憶を「非宣言的記憶」と分類しています。
「エピソード記憶」と「意味記憶」とは?
上述の「宣言的記憶」の中でも、「エピソード記憶」と「意味記憶」とに分類されます。「エピソード記憶」とは、個人的に体験した出来事に関する記憶で、「朝8時に家の隣のコンビニでお茶を買った」や「〇〇駅は奥さんと初めてあった場所」といった記憶を指します。一方、「意味記憶」とは、個人的な体験とは関係のない、知識として知っている事柄で、「チャドの首都はンジャメナ」や「下り坂でブレーキをずっと踏んでいるとヴェイパーロック現象が生じうる」といった記憶を指します。
「手続き記憶」と「情動記憶」とは?
非宣言的記憶の中でも、「手続き記憶」と「情動記憶」に分類されます。
「手続き記憶」とは、特に意識せずにしている行動や技術のことで、スポーツの技能や楽器の演奏、職人の方々などの手業などを指します。
「情動記憶」とは、恐怖や不安にまつわる記憶など、感情を伴った記憶のことです。
各種実験から見る記憶と睡眠の関係性
宣言的記憶と睡眠の関係性
自分の経験や知識などの宣言的記憶については、いくつかの実験がありますが、どれも睡眠の有用性を示しています。
例えば、被験者に無意味な英単語を覚えさせたうえで、ずっと覚醒させているグループと睡眠をとらせたグループにわけ、時間を空けて単語を思い出させる、という実験や、被験者を、朝単語を覚えさせ夕方にテストするグループと、寝る前に覚えさせ翌朝にテストするグループとにわけて、単語記憶テストをする実験がありましたが、いずれも、睡眠をとらせたグループの方が、思い出せる単語数が多かった、ということがわかりました。
その後の実験では、被験者が寝ている間の脳波をとり、寝る前に覚えさせたことを翌日どの程度覚えているかテストをしたところ、徐波睡眠といわれる、深いノンレム睡眠の時間が長いほど、翌日のテストの成績がよい、ということが明らかになりました。
このように深いノンレム睡眠を長くとった方が、自分の経験や知識などの宣言的記憶が身に付きやすいようです。
手続き記憶と睡眠の関係性
手続き記憶に関しても、睡眠の有用性を示す実験が多いです。
例えば、モニターに映し出された多角形を手元のパネルで一筆書きでなぞるパズルのようなゲームを被験者に何回かしてもらい、正解数を見るという実験がありました。この実験では一定時間経過後に中断を挟み、被験者を、中断中起き続けさせるグループと一度睡眠をとらせるグループとに分け、両者の結果を見たところ、一度睡眠をとったグループの方が全体的にスコアが高いという結果が出ました。また、不規則な絵柄の中から共通点を探るといった問題を解く速さを見る実験では、一度寝た方が、成績が向上するという結果が出ました。
別の研究チームがまとめたところによれば、新しい身体的技能を習得するためには、練習したその日に6~8時間程度の睡眠をとることが不可欠という見解を出しています。さらに別の睡眠が、レム・ノンレム睡眠のどれの影響を最も受けるのか、研究したところ、第2段階のノンレム睡眠が最も大きな影響を与えると明らかにしました。この第2段階のノンレム睡眠のうち、起きる時間の約2時間ほど前のものが、特に影響を与えているとのことです。
情動記憶と睡眠の関係性
情動記憶については、実験はいくつかありますが、宣言的記憶や手続き記憶がノンレム睡眠による影響が大きいという見解があるのとは異なり、レム睡眠の影響が示されています。ラットなどを用いた実験では、記憶の整理にレム睡眠が影響していることがわかっており、その際にある事実にそれに対する感情をタグ付けして記憶する情動記憶の定着作業がなされている可能性があります。とはいえ、まだまだ研究では明らかになっていない部分も多く、今後の研究で明らかになっていくことが期待されています。
メカニズムから見る記憶法
暗記系知識は夜覚えるのがベスト
自分の経験や知識などの宣言的記憶は、寝る前に覚え、寝ている間に記憶を定着させるのがベストです。となると、英単語や資格試験で覚えるべき知識などを覚える作業は寝る前にやるのがベスト。お風呂に入った後、椅子やソファに座って涼みながら、単語帳を見て暗記作業すれば、単調な作業で眠気も良い感じに催され、一石二鳥です。
スポーツや音楽がうまくなりたいならよく寝よう
手続き記憶の定着には、6~8時間程度の睡眠が重要でした。部活や習い事などでスポーツや音楽の何か新しい技能を習ったときは、寝る間を惜しんで練習するより、ゆっくり寝た方が定着します。睡眠で疲労回復と技能の習得の一石二鳥を狙いましょう。特に明け方のノンレム睡眠が重要なので、むやみに早い時間に起こされないよう、環境にも注意しておく必要があります。
最後に
どのようなタイプの記憶であれ、睡眠は非常に重要です。勉強やスポーツ等で覚えたことがあれば、勉強時間・練習時間だけでなく、ぐっすり寝る時間を必ず設けたうえでスケジューリングしてください。また、嫌なことがあった日は、夜明けまで趣味に没頭するのも一つの手です。こうやって睡眠をうまく使って、覚えたことを寝て覚える、覚えたくないことは寝ないで覚えない、といったこともしてみてはいかがでしょうか。